【特別対談】ハンマーの打弦をイメージする。
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内藤 晃(ピアニスト)
石本 育子(たかまつ楽器ピアノ講師)
加藤 正人(ベヒシュタイン・ジャパン代表)
石本:たかまつ楽器ではこの時期青い鳥コンペティションが近づき生徒さんたちはとても頑張っています。
特に連弾部門に出場の皆さんは日頃一人で弾いているので、よいアンサンブルを目指すために苦労しているようです。
やはりまずは
①2人で表現する全体像を理解すること
②オーケストラ曲のピアノ版の場合は如何にそこを表現できるか?
が鍵となることでしょうね。
内藤:ただ、どんなタッチで弾いてもピアノの音色はピアノで、ヴァイオリンやクラリネットの音色が実際に出るわけじゃありませんから、どのようにオーケストラのような響きの錯覚を作り出すかということになります。
石本:聴き手にそう「錯覚」してもらうんですね。それは内藤先生の書かれたベヒシュタインジャパンから出ている小冊子「ピアノでオーケストラを」にとても興味深く書かれていますね。
内藤:僕は、オーケストレーションというのは絵画の遠近法みたいなものだと思ってます。近くに聴こえる楽器と遠くに聴こえる楽器がある。それを、くっきりしたタッチと淡いタッチの使い分けで描き分けていきます。
石本:はい、単に「強弱」の差というだけでは、描ききれない表現があって、それに答え得る楽器と演奏者の工夫が必要だと思います。
内藤:この「淡いタッチ」というのが曲者で。鍵盤部分の雑音成分が出ないように弾くわけですが、慣れるまでなかなか難しいようです。そして、タッチのコントラストによる遠近感は、オーケストラの曲に限らず、どんな曲を弾くのにも最も大事になってくるテクニックのひとつですね。
石本:はい。
淡いタッチを感覚として意識するために、内藤先生がいつもおっしゃっている①戻ろうとする鍵盤の動きを指先で感じることや②「指や腕をどうする?」ではなくハンマーがどうやって弦を打つか?をイメージできることが大切ですよね?
内藤:そうですね!鍵盤の先についているハンマーの動きを指先で感じられることで、弦を直接爪弾いていくような感覚が生まれます。喩えるとすれば、ハンマーのついたアクションというまどろっこしい代物を使って、ハープを遠隔で弾いてるような感じですかね。
加藤:現代のグランドピアノは創業時にカール・ベヒシュタインが採用した「突き上げ式シングルエスケープメント」ではなく、エラールが発明した「ダブルエスケープメント」という連打に有利なアクションが一般的に使われます。当時使用されていたシングルエスケープメントは、連打性という意味では優位ではなかったのですが、鍵盤からハンマーまでの梃子の数が少ないので、鍵盤でハンマーの打弦の瞬間を感じ取ることが容易です。この点はショパンがエラールよりプレイエルを好んだ理由の一つになるのではないかと思います。
しかし、指先に神経を集中させれば、現代のダフルエスケープメントアクションでもハンマーの打弦の瞬間を感じ取ることができます。ハンマーの接弦時間を決める理想的な整音状態、また、アクションの調整が正確であるほど、その打弦の感触を掴みやすくなります。打弦タイミングを捉える指先の意識は演奏表現にとても重要でしょう。強弱の微妙な変化、発声タイミング、止音タイミングのコントロールが抑揚感・音色作りの要になるはずです。
内藤:とりわけベヒシュタインでは、声部ごとにタッチを弾き分けるとそれらが塊にならず分かれて聴こえてくるので、生き生きとしたアンサンブルに聴こえて面白いですね!
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