【レッスンレポート】近藤嘉宏 公開レッスン
※画像をクリックするとPDFファイルをダウンロードすることができます
日時:2019年2 月22日、23日
会場:汐留ベヒシュタイン・サロン
コンサートピアニストとして活躍されている近藤嘉宏先生の公開レッスンが前年に引き続き、汐留サロンにて行われました。ベヒシュタイン・ジャパン主催のレッスンにも度々登場され、細やかで的確な指導は好評です。今回は、2台ピアノを並べてのレッスンで、受講曲もショパンのバラードやリスト、ラフマニノフ、プロコフィエフなど、ピアニストが好む大曲揃いでした。今回はその中から、2曲レッスンを覗かせていただきました。
♪ラフマニノフ:前奏曲集 ト短調 op.23-5
「音量というよりは『締まった音』が欲しいです。音の響きとしてもっと美しく、バランスをコントロールしましょう。大きい音はそんなに必要ではありませんが、指先のスピードが必要です。」「和音の連打(【譜例1】)が今は割と無性格(表情に乏しい)なのだけど、どう弾きたい?ペダルの響きも併せてゆっくりテンポを落として弾いてみて。」ゆっくりのテンポで丁寧に自分の音を聴き、ハーモニーの変化を確かめていくよう、繰り返し指導されました。すると、速いテンポで弾いていた時は気が付かなかった絶妙なハーモニーの移り変わりや、層の違いが少しずつ見えてきて、立体的に聞こえてきました。
【譜例1】ラフマニノフ:前奏曲集 ト短調 op.23-5 冒頭
次に、中間部【譜例2】。
「和音が変わった瞬間に色が変わります。これをもっと感じ取って逐一反応して。」「内声の対旋律(【譜例2】赤丸)も意識してよく聞かせて。常にすべて(の声部)が独立していて、全部が有機的に噛み合ってなければいけません。」「右手の旋律のふくらみをもっと感じて。結果的に説明すると、この音より次のこの音の方が大きいとなってしまうけれども、それをそのまま再現しようとするというよりも、こういう音が出したい、こう弾きたいと求めることが大事です。もっと自ら音を求めて。」欲することが重要です、とのメッセージが強く印象に残りました。
【譜例2】ラフマニノフ:前奏曲集 ト短調 op.23-5 中間部
最後に練習方法について、受講生にメッセージを一言。「まず速く弾く必要はないので、とにかく一つ一つの音を丁寧に精度高く。音色、バランス、細心の注意を払って繊細に作っていってください。速いのは一か月に一回くらいで良いです(笑)。」
筆者もとりわけ大曲になってくると早く弾けるようになりたい、という気持ちが先走って細かい練習がおざなりになり時に純粋に音の響きを楽しむことを忘れてしまいしまいがちですが、今回のレッスンでひとつひとつの音を愛しみながらの丁寧な練習の積み重ねの大切さと欲深く音を求めることの大切さについて改めて考えさせられました。
♪リスト:スペイン狂詩曲(スペインのフォリアとホタ・アラゴネーサ) S.254 R.90
「表現したいことはすごく伝わってくるので良いですね。ただ、奏法がやや叩いてるようになっているので、試しに椅子を少し高くしてみてはいかがですか」とのアドバイス。すると、手首や腕の位置が上がり、自然に鍵盤に体重が乗せられる状態になりました。「それでもっと(腕の体重を)落として弾む感じにしてみたらどうでしょう。」(【譜例3】)
響きがだんだんと広がりベヒシュタインが鳴ってきました!
【譜例3】リスト:スペイン狂詩曲 序奏冒頭
カデンツ風のアルペッジョの速い走句の部分(【譜例4】)は、「指先で一音一音を点で集め、音の発音をもっと絞って。そうするともっと音の粒もそろってきて、動きも無駄がなくなると思います。」実際、受講生の音が前と比べ、きらびやかに、軽やかになっているではありませんか!
【譜例4】リスト:スペイン狂詩曲 序奏の一部分
その後、ゆっくりとしたバスのテーマが軸となる、いわゆる「フォリア」の部分。
※前半は「フォリア」というイベリア半島に起源を持つゆっくりとしたテンポの舞曲によっている。「フォリア」は短調で定型化したバスと和声進行をもとに変奏を行うという演奏慣習があり、リストもこの慣習の通り変奏曲形式で作曲している。(ピティナ・ピアノ曲辞典同曲解説より引用)
「右手が加わってきたら(【譜例5】)、テーマとそれに呼応する右手の合いの手がお互いにもっと関連しあって。掛け合いをしながらつながっていくように。さらにそのあとの右手が付点のリズムでテーマを変奏する時は、ひとつひとつの和音がクリアに。」
【譜例5】リスト:スペイン狂詩曲 「フォリア」の部分
近藤先生のレッスンは妥協なく細やかで毎回リピーターの方も多く、体の使い方、弾き方についてのご指摘もたくさんしてくださり、大変勉強になりました。ベヒシュタイン・ジャパンでは今後も定期的に開催していく予定です。奏法に悩まれている方、刺激を受けたい方など、是非次回以降のレッスンのご参加をおすすめします。日程などの詳細は弊社ホームページをご覧ください。
(文責:前田)
0コメント