【レッスンリポート】ドイツ・マンハイム国立音楽芸術大学総長 ルドルフ・マイスター教授公開レッスン

※画像をクリックするとPDFファイルをダウンロードすることができます


講師:ルドルフ・マイスター

日時:2018年8/23(木)、8/24(金)

会場:赤坂ベヒシュタイン・サロン

ベヒシュタイン・ジャパン協賛のルドルフ・マイスター教授による小出郷ピアノ音楽合宿は20年以上の歴史を持ち、毎年8月に新潟県魚沼市小出郷文化会館で開催されています。この合宿と並んで夏の恒例行事となっているルドルフ・マイスター教授の公開レッスンが東京で開催され、今回はその様子を一部お伝えします。

まず、シューベルトの幻想曲ハ長調D760《さすらい人》。マイスター先生によれば、曲目のタイトルの「さすらい人」とはあてもなくさまよう人という意味もありますが、ここでは中世ヨーロッパにおいて若人が将来の仕事のために自分探しの旅をし、親方のもとへ修行しにいく、という様子を表現しているそうです。それを踏まえて冒頭の力強いテーマ【譜例1】をマイスター先生が弾き出すと、ファンファーレのようにピアノ全体が豊かに鳴り出し、今まさにさすらいの旅へ出かける若者を表すかのようにエネルギッシュで溌剌としたものになりました。また、転調していく様子は、次はどこへ向かうのか、はらはらしていたり、ホッとしたりなど、さすらい人の心情や旅の様子の描写だそうで、まさに旅の場面が目の前に浮かんでくるような演奏でした。

【譜例1】シューベルト:〈さすらい人幻想曲〉D760 冒頭

受講生の演奏もそれに触発されてか、ただff、アクセント、など演奏するだけでなく、音がだんだんと開放され表現が豊かになっていく様子がとても印象的でした。長大な曲ですが、マイスター先生は冒頭のテーマの部分について特にこだわりを持って繰り返し手本を示されたり曲の背景などについてお話しされたりしているうちに一時間があっという間に経ちました。

次に、バッハの平均律二巻第1番【譜例2】のレッスン。一通り演奏が終わった後、「曲のダイナミクス(強弱)については、楽譜には何も書かれていないけど、あなたはどう考えていますか。」とマイスター先生は受講生に問いかけられ、答えに少し困った様子の受講生に「当時の楽器(チェンバロやオルガン)の音で演奏しているように模して弾くべきだという人もいるけれど、私はそうは思いません。現代のピアノで弾くなら全く別のものとして今のピアノの特性を生かした表現をすれば良いですよ。」と仰り、一例を弾い下さいました。決して全てを同じ次元で弾くのではなく、様々な楽器でのpやfを想起させるようにコントラストをつけ、四声体の各声部が異なる音色でくっきりと浮かび上がって、複雑に入り組んだバッハの曲が立体的で生き生きとしていました。この時ふと、混じりけが少なく音域ごとに音色が異なるという特徴をもったベヒシュタインのピアノでバッハを弾くことの大きな意義を感じました。「自分が弾いたのはあくまでも一例であり、同じようにあなたが弾かなければいけないということは全くありません。あらゆる瞬間の響きを感じて自由に表現して良いのです。」とあくまでも奏者の意志であるということを強調されました。

【譜例2】バッハ:平均律第2巻 第1番 プレリュード 冒頭

最後に、ラフマニノフの練習曲Op.39-1【譜例3】では「多くの人が左手を強調しすぎるけれど、これはヴィルトゥオジティーを見せる曲だから、大変だけれども右手の動きを単なるハーモニーとしてぼかして弾かずに、うねりをしっかりと表現しましょう。そうしないとラフマニノフらしさが出てきません。同時に左手の声部は、レガ―トでチェロのような音色で表現しましょう。右と左が同じ音色にならないように!」と指導され、受講生の演奏もより立体的になっていきました。

【譜例3】ラフマニノフ:絵画的練習曲 作品39-1 冒頭

作品ごとに、各時代の様式を踏まえ、現代のピアノ、更に言えばベヒシュタインのピアノで表現できる可能性がとても生かされたレッスンで、非常に熱のこもった時間でした。冒頭で触れたマイスター教授による小出郷音楽合宿は、2020年はコロナウイルスの影響で中止となりましたが、2021年8月17日~22日に開催予定です。詳細は追ってHP等ご案内をご確認ください。

(文責:前田)

【引用楽譜】

Petrucci Music Libraryより

・F.Schubert: Fantasie in C major, D.760 https://imslp.simssa.ca/files/imglnks/usimg/e/ec/IMSLP02232-Schubert-Wanderer-Peters.pdf

・J.S.Bach: Prelude and Fugue in C major, BWV870 https://imslp.simssa.ca/files/imglnks/usimg/5/59/IMSLP29930-PMLP05899-Prelude_and_Fugue_No.1_C_major,_BWV_870.pdf

・Rachmaninoff: Etudes-tableaux, Op.39

http://ks4.imslp.net/files/imglnks/usimg/f/f5/IMSLP39591-PMLP01894-

Rachmaninoff-Etudes-Op39.pdf

C.BECHSTEIN

リストやドビュッシー、ビューローなど偉大な音楽家に インスピレーションを与え続けてきた、世界の3大ピアノメーカーの1つ、 ベヒシュタイン。 そのパフォーマンス・芸術性について、ベヒシュタイン・ジャパンの スペシャリストが、公式サイトには載せない、ここだけの話しをお届けします。

0コメント

  • 1000 / 1000